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ベニスに死す [映画]

NHKのBSで先日来ヴィスコンティ映画特集をやっています。昨夜はあの名作「ベニスに死す」。若いころ観たときは、主人公の老作曲家アッシェンバッハの気持ちがいま一つ理解できませんでした。それどころか、ちょっと「キモイ」おっさん・・・といった目で見ていたフシがあります。←自分の幼稚さを深く反省

今回、トシをとって改めてこの映画を観てみると、アッシェンバッハの苦しみや哀しみが痛いほど伝わってきて、全編を流れるマーラーの交響曲第五番のアダージェットを聴きながら涙がジワジワとにじみ出てきました。

 以下ネタバレ注意。

もう若くはない。家庭を失い、仕事にも行き詰まり、心臓と、おそらくは心の病をも抱えながら、静養先のベニスにやってきたアッシエンバッハ。滞在するホテルに同宿しているポーランド人の少年タッジオは、まさにギリシャ彫刻のような「完璧な美」と、瑞々しい若さ・・・・自分には「ない」2つのもの・・・を見事なまでにそなえていて、アッシエンバッハは心を震わせながらタッジオを遠くから見つめ続けます。

彼はタッジオに恋こがれます。しかし、この思いはどうすることもできません。自分が老いた、魅力のない人間であることを知っている彼は、タッジオと親しくなるどころか、声をかけることも、共に何かをすることも、守ってあげることすらもできず、ただ遠くから見つめ、ストーカーのようにそっと後をつけることしかできないのです。

タッジオは次第にそんなアッシェンバッハの眼差しに気づくのか、時折振り返ったり、フッと微妙なほほえみを浮かべたりするのです。ああ!「若い」ということはなんて無邪気で残酷なんでしょう!

 一方、このころ、ベニスではコレラが蔓延しています。目に見えない「細菌」によって、ヒタヒタと迫る死の恐怖。若さと老い。生と死。富と貧。まばゆい海の光とベネチアの路地裏の影。映画はさまざまな明と暗を描きながら、そのどれもが実はひとつであることを物語っているかのようでした。

後半、アッシェンバッハは床屋でこう言われます。「若さは気持ちの持ちようです。あなたたちお偉方は恰好にかまわなすぎですよ。まあ、私に任せてください」と(いかにもイタリア人の床屋さんが言いそうだ!)

床屋はアッシエンバッハの髪と鬚を黒く染め、頬や口にもほんのりと紅をのせ、胸にはピンクの花を一輪さしてアッシエンバッハを若返らせます。アッシェンバッハも悪い気はしません。しかし、ラストではこの化粧が汗で無惨にも流れ、まるで「黒い血」のように顔をしたたります。素顔のまま、そしてほとんど裸に近い水着姿で波打ち際にたたずむタッジオの、キラキラと輝くばかりの美しさとの対比を、より一層際だたせるのです。

ラストシーンは本当に美しく、切ないものでした。アッシェンバッハは最期にはとても幸せそうに見えるのですが、彼がタッジオに求めたものとは、結局のところ、何だったのでしょう。砂時計の砂が少なくなった、と気づいたときには、砂はほとんど残っていないのだ・・・。映画の冒頭の逸話も印象的。

また何年か後、みたび観るときには、また違った感想を持つかもしれません。それが楽しみのような、こわいような・・・。こうして繰り返し味わうことができ、そのたびに何か発見のある、というのが名作の名作たるゆえんだ、と思いました。 


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c-d-m

これは映画だけでなく小説などにも言えますね。
いつの時代にどんな感性でそれに触れるのかによって受け止め方がこうも違うものなのかと思うことが多くなる、
自身が「年代モノ」になると尚更ですね。
by c-d-m (2006-11-29 21:22) 

エッコ・ミ

若いときにあった瑞々しい感性は失われても、別の感性が備わってきているんですね。以前、あんなに感動した映画が、改めて観るとそうでもなかった・・・なんていうこともあったりします。
by エッコ・ミ (2006-12-02 10:29) 

かえる妻

そうそう、同じ物語でも、年齢を重ねて再び観たり読んだりすると、感動のツボが違うんですよね。
気づかないものに気づいたり、泣けた場所で泣けなかったり。
これは内面が成長(成熟)したって事なんでしょうか・・・?
先日『道』を久々に観て、あれこれ感じた私です。
by かえる妻 (2006-12-02 22:08) 

エッコ・ミ

かえる妻さん、こんにちわ。
感動のツボ、変わりますよね。いつ観たか、読んだか、で感情移入する対象も変わってきますし。若いころは老人の主人公に感情移入することって、あまりなかった気がします。
「道」は過去に2回観ていますが、久しぶりにまた観てみたくなりました。
by エッコ・ミ (2006-12-03 10:02) 

ecco

ビョルン・アンドレセンの美しさに映画をみたはるか昔は
ただきゃ~きゃ~いっていただけだったように思います。
この年でもう一度みてみると
私もまったく違うものを感じとることができるのでしょうね。
みてみようかしら・・・
by ecco (2006-12-05 21:51) 

エッコ・ミ

そう!監督がヨーロッパ中を探して見つけた、という美少年ですよね。
その後、彼はどうなっているのかしら・・・。
by エッコ・ミ (2006-12-06 17:07) 

Hiji-kata

この記事 読ませて頂きました。
力作ですね。(でも読みやすい)
エッコ・ミさんの洞察の深さに驚きながら
楽しく映画を追体験いたしました。
by Hiji-kata (2007-01-14 05:14) 

エッコ・ミ

土方歳三さま、ありがとうございます。
洞察が深いなんて、とんでもない。
恥ずかしながら、自分の幼稚さをさらしております。
あたたかいコメントいただき恐縮です。
by エッコ・ミ (2007-01-14 09:48) 

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