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植田智加子著『南アフリカらしい時間』 [本]

著者の植田さんは1990年、ネルソン・マンデラ氏が来日したおりに彼を治療した
鍼灸師である。それがきっかけで翌年、南アフリカに行き、半年近く滞在した。
「鍼灸で治りそうな病人がいたら治療させてもらい、その人の家に泊まる。うまく
治ったらほかの家からもよばれるからそちらに移動する……」
そんな日々の様子を『手でふれた南アフリカ』(径書房)という本に著している。
ふんわりとした風のように、自由で、やさしく、心地よい文章は、彼女の
人柄そのもののようで、私の愛読書の1つとなった。

前著から17年(もたってしまったことに驚き!)
彼女にとって2冊目となるエッセイ集が出た。
ふんわりとした風のような文章は変わらない。しなやかで、繊細な感性も、
シンは強いのに、控え目で偉ぶらない態度も。そして、前作にも増して、
一つ一つのエピソードがおもしろい。

植田さんは帰国して間もなく、また南アにわたり、95年にはケープタウンで
鍼灸院を開設していたのだった。しかも、治安が決して良くない異国の地で
子どもを産み、いきなりシングルマザーになる。
ひゃあ、大変!と思うのだが、「子どもの泣き声が聞こえたら何が起こったのか
確かめないではいられない南アフリカの隣人たち」に囲まれて、赤ちゃんも、
彼女も、大きくなっていく。

本の第二部では91年から7年間にわたって、治療のために訪れた
マンデラ氏の家でのできごとが綴られている。歴史を動かした偉大な
人物とともに過ごした「静かな時間」。人に自慢したくなるような話を、
植田さんは大切な宝物をそっと見せてくれるように紹介している。
読み手の私たちも大事に、そっと味わう。そうして、静かな時間を共有
する。

外国で長く暮らしている人というと、アグレッシブで言いたいことを
バンバン言う、というイメージが強いけれど、植田さんは言いたいことが言
えずに困ったり、遠慮したりする。南アフリカで泊めてもらった家のほとんど
にメイドがいることに居心地の悪さを覚える。

そんな、至極まっとうな普通さが、読んでいて心地いい。
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