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『ゆびさきの宇宙 福島智・盲ろうを生きて』(岩波書店) [本]

目が見えず、耳も聴こえない、という「盲ろう」者は、日本にも1万数千人から2万人前後いるそうだ。

福島智さんは世界で初めての盲ろうの大学教授。
9歳で全盲になり、18歳で音を奪われた。
以来ずっと、福島さんにとっては「生きること自体が戦いだ」。

生井久美子著『ゆびさきの宇宙』(岩波書店)は、そんな福島さんへの膨大なインタビューをまとめた本である。
「地球からひきはがされ、果てしない宇宙に放り出されたような、孤独と不安」の中にある福島さん。彼を追い続ける中で、著者は、そして読者である私たちも「生きるとは何か」を深く考えさせられる。

福島さんのことは以前、テレビで見て知っていたが、そのときはただ「超人」の印象に圧倒された。
今回、本書で福島さんが「適応障害」を患っていたことを知り、福島さんが福島智であり続けること、リングに上がって常に戦い続けることを運命づけられている人の苦悩、また、それを支え続けることが当たり前のように見られている妻の過酷さを知らされた。

本書の中で述べられる福島さんならでは、の「障害」や社会保障に対する考え方はたいへん勉強になった。

「セーフティ・ネット」ということばが最近よく使われるが、もともとはサーカスの綱渡りなどで落下してもけがをしないために張られた網のこと。でも、人生は綱渡りのようなものなのか、あるいは、そうあるべきものなのか、と福島さんは問う。
「…たった一人で空中の細いロープをわたっていく、特別な才能があり、特別に努力した人が、それでもなお生命の危機を伴ってやっと可能になる綱渡りのような行為を、人生の象徴として考えるような発想は、あまりにも過酷で、また排他的で、孤立した人生観だと私には思えます」
「セーフティ・ネットではなく、人生を他者とともに歩む足場としての道となるネット、という意味で『架け橋としてのネット』と呼びたい」

「障害者の問題は、社会の本当の豊かさの実態を示す『ショーウィンドウ』なんです」

人生で重要なことは何か。中学生に向けての福島さんの答え。
「人生で大切なことや、ものはたくさんあると思います。でも本当に、本当に重要なことは、おそらくたった一つだけで、それは『生きること』、つまり人生そのものです。そして、自分が生きることが大切であれば、当然同じ人類である他の人が生きることも大切です。逆に言えば、『生きること』ができていれば、『人生というテストの点数』は、それだけでももう90点くらいだと私は思います」

「生きること」じたいが、何よりも重要な仕事だ、というメッセージは本書からヒシヒシと伝わってくる。

著者の生井さんは「あとがき」で次のように書いている。
「伝えたかったことはただひとつ。この世にいま、『福島智』という人が生きていることです」

私も福島智さんのこと、ぜひ一人でも多くの方に知ってほしいです。この本をお勧めします。



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